ケンネルコフ(犬伝染性気管支炎)— 症状・感染経路・治療法
この記事は獣医師の監修を受けています
ケンネルコフは犬の「風邪」とも呼ばれる呼吸器感染症で、ドッグランやペットホテル、ペットショップなど犬が集まる場所で広がります。正式名称は「犬伝染性気管支炎(CITB: Canine Infectious Tracheobronchitis)」です。軽症であれば自然に回復しますが、子犬や高齢犬では重症化するリスクがあります。
ケンネルコフの原因
ケンネルコフは単一の病原体ではなく、複数のウイルスや細菌が 単独または複合的 に感染して発症します。
主な病原体:
- 犬パラインフルエンザウイルス(CPIV):最も一般的な原因ウイルス
- 犬アデノウイルス2型(CAV-2):気管支の炎症を引き起こす
- ボルデテラ菌(Bordetella bronchiseptica):細菌。単独でも発症させ、ウイルス感染の後に二次感染として加わることも多い
- 犬ヘルペスウイルス、犬呼吸器コロナウイルス:補助的な病原体
複数の病原体が同時に感染すると症状が重くなる傾向があります。
感染経路
飛沫感染(ひまつかんせん)
感染した犬の咳やくしゃみで飛び散った微小な飛沫(水滴)を、近くにいる犬が吸い込むことで感染します。最も主要な感染経路 です。
接触感染
感染した犬の鼻水や唾液が付着した食器・おもちゃ・ケージ・飼い主の手や衣服を介して間接的に感染します。
感染が広がりやすい場所
- ペットホテル・ペットショップ
- ドッグラン・ドッグカフェ
- 動物病院の待合室
- トリミングサロン
- 犬のしつけ教室・訓練所
- 多頭飼育の家庭
潜伏期間は3〜10日 です。感染から症状が出るまでにタイムラグがあるため、「行ってから1週間後に咳が出始めた」というパターンが典型的です。
主な症状
軽症の場合
- 乾いた咳が特徴的:「カッカッ」「ケッケッ」と何かが喉に詰まったような音
- 喉を軽く押すと咳が誘発される
- 咳は発作的に出て、数秒〜数十秒続く
- 咳の最後に「オエッ」と吐くような動作(えずき)をすることがある
- 食欲・元気は保たれていることが多い
- 透明〜白色のサラサラした鼻水
軽症のケンネルコフは 7〜14日 で自然に回復することが多いです。
重症の場合
- 咳が頻繁で、1日中ほとんど止まらない
- 湿った咳に変わる(痰が絡むような音)
- 黄色〜緑色の鼻水(細菌の二次感染)
- 発熱(39.5℃以上)
- 食欲低下・元気消失
- 肺炎への進展:呼吸が速い・苦しそう
今すぐ病院に行くべきサイン
- 咳が始まって 3日以上経っても改善の兆しがない
- 咳が日ごとに悪化している
- 食欲が半分以下に減った
- 発熱がある(39.5℃以上)
- 黄色〜緑色のドロッとした鼻水が出ている
- 呼吸が速い(安静時に1分間 40回以上)
- ぐったりして元気がない
- 生後6か月未満の子犬で咳が出ている
- 10歳以上の高齢犬で咳が出ている
- 他の持病(心臓病・気管虚脱など)がある犬で咳が出ている
様子見してよい場合
以下のすべてを満たす場合は、自宅で1週間ほど様子を見ることができます。
- 乾いた咳のみで、湿った咳ではない
- 咳の発作は1日に数回程度
- 食欲・元気・排泄がほぼ正常
- 鼻水は透明で少量
- 成犬(1〜7歳)で他に持病がない
- ワクチン接種歴がある
治療法
軽症の場合
- 対症療法が中心:咳止め薬(鎮咳薬)で症状を緩和
- 安静にして自然回復を待つ
- 十分な水分補給と栄養のある食事
重症の場合・二次感染がある場合
- 抗菌薬:ボルデテラ菌などの細菌感染に対して処方。ドキシサイクリンやアモキシシリンなどが使われる
- 気管支拡張薬:気道を広げて呼吸を楽にする
- 抗炎症薬:気管支の炎症を抑える
- ネブライザー(吸入療法):薬剤を霧状にして直接気道に届ける。重症例で使用
肺炎に進展した場合は 入院治療(点滴・酸素吸入・抗菌薬の静脈投与)が必要になることがあります。
自宅でできるケア
安静と隔離
- 他の犬との接触を 最低2週間 避ける(感染力がある間は隔離が必要)
- ドッグラン・ペットホテル・トリミングは症状消失後 1週間 は控える
- 散歩は短時間・静かなルートに限定し、他の犬に近づけない
環境を整える
- 室内の湿度を 50〜60% に保つ。乾燥は咳を悪化させる
- タバコの煙・ほこり・強い香りを避ける
- 首輪を ハーネスに切り替える(首輪は気管を圧迫して咳を誘発する)
栄養と水分
- 喉の痛みで食欲が落ちている場合は、ウェットフードやドライフードをぬるま湯でふやかして与える
- 水は常に新鮮なものを用意し、こまめに飲めるようにする
- はちみつを少量(小さじ半分程度)なめさせる:喉の炎症を和らげる民間療法として一部の獣医師も推奨。ただし1歳未満の子犬には与えない
予防法
ワクチン接種
- 混合ワクチン(5種以上)にパラインフルエンザウイルスとアデノウイルス2型が含まれている
- ボルデテラワクチン(鼻腔内噴霧型または注射型):ペットホテル利用前や犬が多い環境に行く前に接種しておくと効果的。効果持続期間は 約6か月〜1年
日常の予防策
- 犬が集まる場所に行った後は、手洗い・衣服の着替えを行う
- 免疫力を高めるため、バランスの良い食事と十分な休息を確保する
- 子犬はワクチンプログラムが完了するまで、不特定多数の犬との接触を控える
病院に行くときの準備
- 咳の動画:乾いた咳か湿った咳かがわかる録画
- 発症時期の特定:いつ頃から咳が始まったか
- 感染の心当たり:発症前2週間以内にドッグラン・ペットホテル・トリミングなどを利用したか
- ワクチン接種歴:混合ワクチンとボルデテラワクチンの最終接種日
- 同居犬の有無と症状:他の犬にも症状が出ているか
- ペット保険証:加入している場合は持参
この記事の情報は一般的な参考情報です。個別の症状については必ず獣医師にご相談ください。