犬の白内障 — 初期症状の見分け方と治療の選択肢
この記事は獣医師の監修を受けています
「最近、愛犬の目が白っぽく見える気がする」——そう感じたら白内障(はくないしょう)のサインかもしれません。白内障は水晶体(目の中にあるレンズの役割を果たす透明な組織)が白く濁る病気で、進行すると視力が低下し、最終的には失明に至ることもあります。犬では加齢だけでなく遺伝や糖尿病によっても起こるため、シニア犬だけの病気ではありません。早期発見と適切な治療選択がとても大切です。
犬が白内障になる主な原因
1. 加齢性(老年性)白内障
もっとも多い原因です。6歳以上のシニア期に入ると水晶体のタンパク質が変性し、少しずつ白く濁り始めます。ただし、加齢に伴う「核硬化症(かくこうかしょう)」という生理的な変化と見た目が似ているため、自己判断は禁物です。核硬化症は水晶体の中心部が青白く光って見える状態で、視力にはほとんど影響しません。白内障との区別は獣医師による検査が必要です。
2. 遺伝性(若年性)白内障
トイプードル、コッカースパニエル、ミニチュアシュナウザー、シベリアンハスキーなどは遺伝的に白内障を発症しやすい犬種として知られています。早い場合は1〜3歳の若齢で発症することがあり、進行も比較的早い傾向があります。
3. 糖尿病性白内障
犬が糖尿病(血液中の糖が異常に高くなる病気)を発症すると、水晶体内のブドウ糖濃度が上がり、浸透圧の変化で水晶体が急速に白濁します。糖尿病性白内障は数日〜数週間という短期間で急激に進行するのが特徴です。多飲多尿(水をたくさん飲み、おしっこの量が増える)を伴う場合は糖尿病を疑います。
白内障の進行段階
白内障は4段階で進行します。
- 初発期: 水晶体のごく一部が白濁。視力への影響はほぼなし。飼い主が気づきにくい
- 未熟期: 水晶体の25〜75%程度が白濁。明るい場所では瞳孔が小さくなるため目立ちにくいが、暗い場所で白っぽさに気づくことが増える
- 成熟期: 水晶体全体が白濁。視力が大幅に低下し、物にぶつかる・段差を踏み外すなどの行動変化が見られる
- 過熟期: 水晶体が液化・縮小し始める。ブドウ膜炎(目の内部の炎症)や緑内障(眼圧が上がる病気)を合併するリスクが高まる
今すぐ病院に行くべきサイン
以下のいずれかに当てはまったら、できるだけ早く動物病院を受診してください。
- 目の白濁が数日で急激に進んだ
- 物にぶつかる、段差を怖がる、暗い場所で動かなくなる
- 目が赤い・目を気にしてこする・涙が増えた(ブドウ膜炎の併発を疑う)
- 目が大きく腫れている感じがする(緑内障の可能性)
- 多飲多尿がある(糖尿病の検査が必要)
- 目の白濁に加えて食欲低下・元気消失がある
特に糖尿病性白内障が疑われる場合は、白内障の治療だけでなく血糖値の管理も緊急で必要になります。
様子見してよい場合
以下のすべてを満たすときは、次回の定期検診で相談しても問題ありません。
- 目の白濁がごく薄く、光の加減で気になる程度
- 物にぶつかるなどの視力低下の兆候がない
- 目の赤み・痛みの兆候がない
- 食欲・元気は普段通り
- 飲水量やおしっこの量に変化がない
ただし、白内障は自然治癒しません。「まだ大丈夫」と思っていても、知らないうちに進行していることがあります。半年に1回は眼科チェックを受けることを推奨します。
自宅でできるケアと生活の工夫
家の中の安全対策
視力が低下した犬のために、家具の角にクッション材を貼る、階段にゲートを設置する、部屋のレイアウトをなるべく変えないようにするなどの配慮が有効です。犬は嗅覚と記憶で生活空間を把握しているため、レイアウトを頻繁に変えると混乱します。
散歩時の配慮
リードを短めに持ち、段差や障害物の手前で声をかけて知らせてあげましょう。急に走り出す他の犬や自転車に驚きやすくなるため、静かな時間帯・ルートを選ぶと安心です。
サプリメントについて
抗酸化成分を含むサプリメントが市販されていますが、すでに白濁した水晶体を元に戻す効果は証明されていません。進行を遅らせる可能性があるとする研究はありますが、確実な効果があるとはいえない段階です。自己判断で使用する前に獣医師に相談してください。
病院に行くときの準備
- 目の写真を撮る: 白濁の程度が伝わるよう、フラッシュなしで明るい場所と暗い場所の両方で撮影
- 行動の変化をメモ: 物にぶつかった回数や場面、段差での反応、暗所での行動変化
- 発症時期: いつ頃から白っぽさに気づいたか
- 飲水量の変化: 多飲多尿の有無(糖尿病の判断材料になる)
- 犬種と年齢: 遺伝性白内障のリスク評価に重要
動物病院では、スリットランプ検査(細い光で水晶体の断面を観察する検査)や眼圧測定、血液検査(糖尿病の有無を確認)が行われます。治療法は進行度によって異なり、初期〜未熟期では点眼薬で進行を抑える方法、成熟期では外科手術(超音波水晶体乳化吸引術と人工レンズの挿入)が選択肢に入ります。手術の成功率は約90%以上とされていますが、費用は片目で20〜40万円程度が目安です。手術が適応できない場合でも、合併症の管理や生活環境の調整で快適に過ごすことは十分に可能です。
この記事の情報は一般的な参考情報です。個別の症状については必ず獣医師にご相談ください。