猫の膀胱炎(FLUTD)— 特発性膀胱炎の原因と再発予防
この記事は獣医師の監修を受けています
猫がトイレに何度も駆け込む、おしっこの量が少ない、血が混じっている——こうした症状は「猫下部尿路疾患(FLUTD=Feline Lower Urinary Tract Disease)」と総称され、その中でも最も多いのが「特発性膀胱炎(FIC=Feline Idiopathic Cystitis)」です。10歳未満の猫の膀胱炎のうち、約55〜65%がこのFICとされています。細菌感染や結石が見つからないのに炎症が起きるこの病気は、ストレスと深い関係があり、再発率も高いのが特徴です。
猫の膀胱炎(FLUTD)の主な原因
1. 特発性膀胱炎(FIC)— 最多
「特発性」とは原因が特定できないという意味ですが、近年の研究ではストレスによる神経系の過剰反応が膀胱の粘膜に炎症を引き起こすと考えられています。人間の「間質性膀胱炎」に似た病態です。以下がリスク因子とされています。
- 室内飼い・運動不足:外部刺激が少なく退屈な環境
- 多頭飼い:猫同士の緊張関係
- 肥満:体重が理想体重の20%以上オーバー
- ドライフードのみの食事:水分摂取量が少ない
- トイレ環境の問題:トイレが汚い・数が足りない・場所が落ち着かない
2. 尿路結石
ストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)とシュウ酸カルシウム結石が猫の結石の約90%を占めます。FLUTDの原因としては約15〜20%です。結石が膀胱の内壁を傷つけ、血尿や頻尿を引き起こします。
3. 細菌性膀胱炎
10歳未満の猫では全体の2〜5%程度と少数ですが、10歳以上の高齢猫では割合が増え、約50%が細菌性とされます。糖尿病や腎臓病で免疫力が低下している猫に多い傾向です。
4. 尿道栓子・尿道閉塞
結晶やタンパク質が固まった栓子(せんし)が尿道を塞ぐ状態です。これは膀胱炎が悪化した結果として起こることがあり、オス猫では命にかかわる緊急事態になります。
今すぐ病院に行くべきサイン
以下が一つでも当てはまる場合は早めに受診してください。
- トイレに5回以上/日行くのに量が極端に少ない
- おしっこがまったく出ない(特にオス猫は緊急!)
- 真っ赤な血尿、または血の塊が見える
- トイレ以外の場所(布団・床・浴室)でおしっこをする
- 排尿時に鳴き声をあげる
- ぐったりして食欲がない
- 嘔吐を伴っている
- 陰部を何度も舐めている
オス猫で「トイレに行くが出ない」場合は、尿道閉塞の可能性があり24時間以内に命にかかわります。夜間でも救急を受診してください。
様子見してよい場合
以下のすべてに当てはまる場合は、1〜2日の経過観察が可能です。
- おしっこは出ている(量がやや少ない程度)
- 尿の色が薄いピンク程度(鮮血ではない)
- 食欲・元気は普段通り
- トイレの回数が普段の2倍以内
- 排尿時に激しい痛がりがない
- 嘔吐やお腹の張りがない
FICは症状が軽ければ5〜7日で自然に治まることもあります。ただし再発率が非常に高く(1年以内に約40〜50%が再発)、根本的なストレス対策なしには繰り返す傾向があります。
自宅でできるケアと再発予防(MEMO戦略)
FICの再発予防には「環境の充実化」が最も重要とされています。以下の4つの柱で対策しましょう。
M:Moisture(水分摂取を増やす)
尿を薄く・たくさん出すことが膀胱への刺激を減らす最善策です。
- ウェットフードを主食に切り替える:ドライのみと比べて水分摂取量が約2倍に
- ドライフードに水を加える:フード30gに対して水30〜45mlが目安
- 自動給水器の導入:流れる水を好む猫が多く、飲水量の増加が期待できる
- 水飲み場を3か所以上設置:フードから離れた静かな場所がベスト
E:Environment(トイレ環境の最適化)
- トイレの数=猫の数+1:1匹なら2つ、2匹なら3つ
- 1日2回以上の清掃:汚れたトイレは猫の排泄回数を減らす原因に
- トイレの大きさ:猫の体長の1.5倍以上の広さが理想
- 砂の種類:鉱物系の細かい粒の砂を好む猫が多い(香りつきは避ける)
- 設置場所:静かで人通りが少なく、逃げ道のある場所
M:Mental(ストレス軽減)
- 高い場所の確保:キャットタワーや棚の上など、猫が安心できる高所スペース
- 隠れ場所の用意:段ボール箱やベッド付きの隠れ家
- 1日10〜15分の遊び時間:猫じゃらしやボールで狩猟本能を満たす
- フェリウェイの使用:猫用合成フェロモンの拡散器で環境全体のストレスを緩和
- 生活リズムの安定:食事・遊びの時間帯を毎日一定にする
O:Observation(観察と記録)
- トイレの回数を毎日チェック:固まるタイプの砂なら尿塊の数と大きさを確認
- 尿の色に注意:正常は薄い黄色〜黄色
- 体重管理:月1回の体重測定で肥満を防ぐ(FICのリスク因子)
- 行動の変化に気づく:隠れる時間が増えた・グルーミング過多は初期のストレスサイン
病院に行くときの準備
- 尿の採取:システムトイレなら受け皿から採取。普通のトイレなら砂を一時的にビーズ(非吸収性)に替えると採りやすい
- トイレの写真:血尿がついた猫砂やシーツの写真を撮る
- トイレ回数と時間帯の記録:いつから・何回・どのくらいの量かをメモ
- 環境変化の情報:直近で引っ越し・来客・新しいペットなどストレス要因がなかったか
- 食事内容:フードのブランド・種類(ドライ/ウェット)・量を確認
病院では尿検査(試験紙・沈渣)・エコー・レントゲンで結石や腫瘍を除外し、原因に応じた治療を行います。FICと診断された場合、短期的には鎮痛剤で痛みを和らげ、長期的には環境改善が治療の柱になります。
この記事の情報は一般的な参考情報です。個別の症状については必ず獣医師にご相談ください。