犬のてんかん — 診断・治療薬・発作の記録方法
この記事は獣医師の監修を受けています
愛犬が繰り返し痙攣を起こしている場合、「てんかん」と診断されることがあります。犬のてんかんは脳の神経細胞が過剰に興奮して発作を繰り返す慢性疾患で、犬の約0.5〜5%が罹患するとされています。完治は難しいですが、適切な投薬で発作の頻度を大幅に減らし、良好な生活の質を維持することが可能です。この記事では診断までの流れ、治療薬の種類、そして飼い主ができる発作の記録方法をまとめます。
てんかんの種類
1. 特発性てんかん(最多)
脳に腫瘍や炎症などの明確な病変がないのに発作が起こるタイプです。遺伝的な要因が主で、1〜5歳で初発することが多いとされています。犬のてんかん全体の約60〜70%がこのタイプです。
好発犬種:ビーグル、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ジャーマンシェパード、ボーダーコリー、オーストラリアンシェパード、ダックスフンドなど
2. 構造的てんかん(症候性てんかん)
脳腫瘍・脳炎・水頭症・脳血管障害・外傷後の瘢痕などが原因で起こるタイプです。6歳以上で初めて発作が起きた場合は、このタイプの可能性が高まります。MRI検査で脳の異常を確認します。
3. 反応性発作
てんかんではなく、低血糖・肝不全・腎不全・中毒など、脳以外の原因で脳に影響が出て発作が起こるものです。原因を治療すれば発作は止まります。
診断までの流れ
てんかんの診断は「除外診断(じょがいしんだん)」です。他の原因を一つずつ否定して、残ったものがてんかんという考え方です。
ステップ1:問診と身体検査
発作の様子(動画があれば最善)、初発年齢、頻度、中毒や外傷の可能性を確認します。
ステップ2:血液検査・尿検査
低血糖・肝機能・腎機能・電解質・甲状腺ホルモンなどをチェックし、代謝性の原因を除外します。
ステップ3:神経学的検査
獣医師が反射・歩行・瞳孔反応・姿勢反応などを手技でチェックし、脳のどの部位に問題がありそうかを推測します。
ステップ4:MRI・脳脊髄液検査(必要に応じて)
脳腫瘍や脳炎を疑う場合はMRI検査と、脳脊髄液(のうせきずいえき)の分析を行います。全身麻酔が必要なため、リスクとメリットを獣医師と相談のうえ判断します。費用は5〜15万円程度です。
1〜5歳で初発し、神経学的検査と血液検査に異常がなければ「特発性てんかんの疑い」として治療を開始するのが一般的です。
治療薬と投薬管理
治療開始の目安
以下のいずれかに該当する場合に、抗てんかん薬の開始が推奨されます。
- 6か月間に2回以上の発作
- 重積発作(5分以上続く発作)を1回でも経験
- 群発発作(24時間以内に2回以上の発作)を経験
- 発作後の回復に時間がかかる(30分以上)
- 発作の頻度が増えてきている
主な抗てんかん薬
フェノバルビタール(第一選択薬):
- 犬のてんかん治療で最も長い歴史と実績がある薬
- 約60〜80%の犬で発作頻度が半分以下に減少
- 副作用:飲み始めの眠気・ふらつき(1〜2週間で慣れることが多い)、食欲増加、多飲多尿
- 長期使用では肝臓への負担があるため、6か月ごとの血液検査(血中濃度+肝機能)が必要
臭化カリウム(KBr):
- フェノバルビタールとの併用、または肝臓に問題がある犬の代替薬として使用
- 効果が安定するまで3〜4か月かかる
- 副作用:ふらつき・消化器症状(食事と一緒に与えると軽減)
レベチラセタム(イーケプラ):
- 比較的新しい薬で、副作用が少ないのが特徴
- 単独またはフェノバルビタールとの併用で使用
- 1日2〜3回の投与が必要(飲ませ忘れに注意)
ゾニサミド:
- 日本で開発された薬で、犬のてんかんにも使用される
- 副作用が比較的少なく、1日1〜2回の投与
- フェノバルビタールとの併用も可能
投薬の鉄則
- 自己判断で薬を中止・減量しない:急な中止は「離脱発作」を引き起こし、重積発作のリスクが急上昇
- 飲ませ忘れたら気づいた時点で投与:次の投薬時間が近い場合は1回分を飛ばす(2回分を一度に与えない)
- 定期的な血中濃度の測定:適切な薬の量は犬ごとに異なるため、血液中の濃度を確認して調整
発作の記録方法(発作ダイアリー)
てんかん治療では、飼い主による発作の記録が治療方針を決める重要な情報源になります。
記録すべき項目
- 日付と時刻:何月何日の何時に始まったか
- 持続時間:何分何秒続いたか(タイマー計測)
- 発作の種類:全身が硬直→ガクガク(全般発作)/ 顔や足の一部だけがピクピク(焦点発作)
- 発作前の兆候:落ち着きがなくなる・舐め回す・隠れるなどの前兆があったか
- 発作後の回復時間:意識がはっきり戻るまでの時間
- その日の特記事項:薬の飲み忘れ・来客・雷・花火・長時間の留守番など
記録のコツ
- 動画を撮る習慣をつける:慌てるが、15秒でもいいので撮影(獣医師への最高の情報)
- ノートやスマホのメモアプリに記録:後から振り返れるように一元管理
- 受診時に記録を持参:薬の増減を判断する根拠になる
日常生活での注意点
- 規則正しい生活リズム:急な環境変化や極端な興奮は発作の引き金になりやすい
- 適度な運動は継続:過度な制限は不要だが、水泳や高所の散歩は発作時の危険を考慮
- 食事の安定:フードの急な切り替えを避け、決まった時間に食事を与える
- 他の薬やサプリの相互作用に注意:市販薬を与える前に必ず獣医師に相談
- 緊急連絡先の確認:夜間救急病院の連絡先と場所を事前に確認しておく
病院に行くときの準備
- 発作ダイアリー(記録)を持参:直近の発作の頻度・パターンが治療方針の根拠に
- 発作の動画:発作の種類を正確に判断するための最重要資料
- 現在服用中の薬リスト:薬の名前・用量・投与回数を正確にメモ
- 血液検査の予定確認:前回の検査から6か月以上経過していれば受診当日に検査可能か確認
- 気になる変化のメモ:行動の変化・食欲の増減・飲水量の変化など
てんかんの治療は長期にわたります。「発作をゼロにする」ことが目標ではなく、「発作の頻度と重症度を減らし、副作用を最小限に抑えて生活の質を保つ」ことが現実的なゴールです。獣医師と定期的にコミュニケーションをとりながら、愛犬に合った治療を一緒に見つけていきましょう。
この記事の情報は一般的な参考情報です。個別の症状については必ず獣医師にご相談ください。