猫がふらつく・よろける — 前庭疾患・中毒・脳の病気の見分け方
この記事は獣医師の監修を受けています
いつもはスムーズに歩く愛猫が急にふらつく、よろける、まっすぐ歩けない——。こうした歩行異常は「運動失調(うんどうしっちょう)」と呼ばれ、脳・耳・神経・中毒など複数の原因が考えられます。なかには数時間で急速に悪化するケースもあるため、見極めが重要です。この記事ではふらつきの主な原因、病気ごとの特徴的なサイン、そして受診の判断基準を解説します。
ふらつきの主な原因と見分け方
1. 前庭疾患(末梢性)
特徴的な症状:
- 頭が片側に傾く(斜頸=しゃけい)
- 眼球が左右または上下に小刻みに揺れる(眼振=がんしん)
- 片側にぐるぐる回る(旋回運動)
- 嘔吐・食欲低下を伴うことが多い
内耳(ないじ)にある平衡感覚をつかさどる器官の異常で起こります。中耳炎・内耳炎が原因のことが多く、耳を気にして掻く・耳から分泌物が出るなどの症状を伴うこともあります。発症は突然で、数日〜数週間かけて徐々に改善するのが典型的な経過です。
2. 前庭疾患(中枢性)
特徴的な症状:
- 末梢性と似た斜頸・眼振に加え、意識の低下や四肢の麻痺が見られる
- 症状が日ごとに悪化する傾向
脳幹や小脳の病変(脳腫瘍・脳炎・脳梗塞など)が原因です。末梢性と比べて予後(よご=病気の見通し)が厳しいケースが多く、MRI検査が必要になります。
3. 中毒
特徴的な症状:
- 急に始まるふらつき+よだれ・瞳孔散大・嘔吐・震え
- 症状出現前に植物を噛んだ・薬剤を舐めた・殺虫剤に接触した形跡がある
猫に危険な物質の代表例:
- ユリ科植物(ユリ・チューリップ):花・葉・花粉・花瓶の水すべてが毒
- ピレスロイド系殺虫剤(犬用スポットオン駆虫薬の誤用を含む)
- エチレングリコール(不凍液):甘い味で猫が舐めやすい
- エッセンシャルオイル(ティーツリーなど)
中毒は時間との勝負です。原因物質が特定できなくても、疑わしい場合は即受診してください。
4. 低血糖
特徴的な症状:
- ふらつき+ぐったり・震え・痙攣
- 子猫(生後6か月未満)や糖尿病でインスリン治療中の猫に多い
血糖値が60mg/dL以下になると神経症状が出始めます。子猫では8時間以上の絶食で低血糖になることがあります。
5. 貧血
特徴的な症状:
- 徐々に進行するふらつき+歯茎や耳の内側が白っぽい
- 食欲低下・体重減少を伴う
ノミの大量寄生・慢性腎臓病・猫白血病ウイルス(FeLV)感染・免疫介在性溶血性貧血などが原因となります。
6. 心疾患
特徴的な症状:
- 突然の後肢麻痺+後ろ足が冷たい+激しく鳴く
- 動脈血栓塞栓症(だいどうみゃくけっせんそくせんしょう)の場合
肥大型心筋症(ひだいがたしんきんしょう)の猫で血栓が後肢の動脈を詰まらせると、突然両後肢が動かなくなります。これは救急疾患です。
今すぐ病院に行くべきサイン
以下のいずれかに当てはまる場合は緊急です。
- 後肢が突然動かなくなった・後ろ足が冷たい
- 中毒の疑いがある物質への接触歴がある
- けいれん・意識消失を伴っている
- 歯茎が白い・呼吸が荒い
- 症状が数時間で急速に悪化している
- 嘔吐が止まらず水も飲めない
- 瞳孔の大きさが左右で違う(瞳孔不同)
様子見してよい場合
以下をすべて満たす場合は、翌日の受診でも許容されます。
- ふらつきの程度が軽く、自力で歩ける・食事がとれる
- 意識は正常で呼びかけに反応する
- 嘔吐・下痢・けいれんがない
- 中毒の可能性が否定できる(室内飼育で原因物質がない)
- 症状の悪化傾向がない
ただし「軽い」と思っても原因が特定できていない場合は、できるだけ早い受診を推奨します。
自宅での応急ケア
安全な環境をつくる
- 高い場所から降ろし、平らな場所に移す(落下防止)
- キャットタワー・階段へのアクセスを遮断する
- 浴槽や洗面台に水を溜めたままにしない
低血糖が疑われる場合
ガムシロップやはちみつを少量(小さじ半分程度)歯茎に塗り、すぐに動物病院へ連絡します。※はちみつは1歳未満の子猫には使わないでください。
中毒が疑われる場合
自己判断で吐かせないでください。 物質によっては吐かせることで食道や胃を再度損傷させます。原因物質があれば現物またはパッケージを持って病院に直行してください。
記録を残す
- ふらつきに気づいた時刻と経過
- 頭の傾き・眼球の動き・歩き方の異常(動画が最も有用)
- 直近24時間の食事・飲水・排泄の状況
- 室内で猫がアクセスできた植物・薬剤・食品のリスト
病院に行くときの準備
- 症状の動画:歩行の様子・眼球の動き・頭の傾きを撮影する
- 時系列メモ:いつから・どのように症状が出たかをまとめる
- 中毒が疑われる場合:原因物質の現物・パッケージ・成分表を持参
- 持病・服用中の薬:糖尿病や心臓病の治療歴、インスリンの直近投与量
- 移動時の注意:キャリーバッグに入れ、段差の少ないルートで車移動が理想。ふらつきがある状態で抱っこのまま歩くのは落下の危険があります
この記事の情報は一般的な参考情報です。個別の症状については必ず獣医師にご相談ください。