犬に多い腫瘍の種類 — 良性と悪性の違い、治療法の選択

犬の腫瘍 — 良性と悪性の違い・検査方法と治療の選択肢

この記事は獣医師の監修を受けています

犬は人間と同様に腫瘍ができやすい動物で、10歳以上の犬のおよそ50%が何らかの腫瘍を持つとされています。腫瘍には良性と悪性があり、治療の方針は大きく異なります。「腫瘍=がん=死」ではありません。正しい知識を持つことで、冷静に最善の選択ができます。


良性と悪性の違い

良性腫瘍

  • 細胞が比較的ゆっくり・均一に増殖する
  • 腫瘍の境界がはっきりしており、周囲の組織への浸潤(しんじゅん=しみ込むように広がること)がない
  • 転移しない
  • 手術で完全に切除すれば再発しにくい
  • 命に直結することは少ないが、大きくなって生活に支障が出る場合は治療が必要

代表例:脂肪腫・皮脂腺腫・組織球腫・乳頭腫

悪性腫瘍(がん)

  • 細胞が速く・無秩序に増殖する
  • 境界が不明瞭で周囲の組織に浸潤する
  • リンパ節や他の臓器に転移する可能性がある
  • 手術で切除しても再発のリスクがある
  • 治療しなければ生命を脅かす

代表例:肥満細胞腫・悪性黒色腫・軟部組織肉腫・リンパ腫・骨肉腫

外見だけでは判断できない

重要なポイントは、外見や触感だけでは良性・悪性を確実に見分けることができないということです。小さくて柔らかいしこりが悪性であることもあれば、大きくて硬い塊が良性であることもあります。確定診断には必ず検査が必要です。


検査方法

1. 細胞診(さいぼうしん)— FNA検査

細い注射針でしこりの細胞を吸い取り、顕微鏡で観察する検査です。

  • メリット:麻酔不要・痛みが少ない・数分で採取完了・費用が比較的低い(3,000〜8,000円程度)
  • デメリット:採取できる細胞数が限られるため、確定診断に至らないことがある(診断精度は70〜90%程度)
  • 適応:ほぼすべてのしこりの初期スクリーニング(ふるい分け)として推奨

2. 組織生検(そしきせいけん)— バイオプシー

しこりの一部または全体を切除し、病理専門医が顕微鏡で詳しく分析する検査です。

  • メリット:最も精度の高い確定診断が可能。腫瘍のグレード(悪性度の段階)や切除マージン(腫瘍が取りきれているかの境界)も評価できる
  • デメリット:全身麻酔または局所麻酔が必要。費用が高い(病理検査料:10,000〜30,000円+麻酔・手術費用)
  • 種類

- 切開生検:しこりの一部を切り取って検査
- 切除生検:しこり全体を切除して検査(治療と診断を兼ねる)

3. 画像検査

腫瘍の広がりや転移の有無を確認するために行います。

  • レントゲン:肺への転移や骨の異常の確認。費用目安:4,000〜8,000円
  • 超音波検査:腹腔内臓器の腫瘍やリンパ節の腫大の確認。費用目安:5,000〜10,000円
  • CT検査:腫瘍の正確な大きさ・位置・転移の全身スクリーニング。費用目安:40,000〜80,000円(全身麻酔が必要)

4. 血液検査

腫瘍そのものの診断よりも、全身状態の評価(貧血・臓器機能・炎症マーカー)や麻酔リスクの判定に使用されます。費用目安:5,000〜15,000円。


犬に多い腫瘍の種類と特徴

肥満細胞腫(MCT)

犬の皮膚腫瘍で最も多い悪性腫瘍。グレード1(低悪性度)〜グレード3(高悪性度)に分類され、治療方針はグレードによって大きく異なります。グレード1〜2で完全切除できれば予後は良好なことが多いです。

リンパ腫

全身のリンパ節が腫れる多中心型が最も多いタイプです。顎の下・肩の前・膝の裏のリンパ節が痛みなく腫れることで飼い主が気づくことが多いです。化学療法(抗がん剤)が主な治療で、治療により中央生存期間はおよそ12〜14か月とされています。

骨肉腫

大型犬・超大型犬の四肢(特に前肢)に多い骨の悪性腫瘍です。進行すると激しい痛みを伴い、跛行(はこう=足を引きずる)が初期症状であることが多いです。

乳腺腫瘍

未避妊のメス犬に多く、犬の乳腺腫瘍の約50%が悪性とされています。初回発情前に避妊手術をすると乳腺腫瘍の発生率が0.5%以下に大幅に低下します。


治療の選択肢

外科手術

最も一般的で効果的な治療法です。腫瘍を十分なマージン(正常組織を含めた切除幅)で切除することが重要です。肥満細胞腫では腫瘍の端から2〜3cmの余白をつけて切除するのが標準的です。

化学療法(抗がん剤)

手術後の転移予防、または手術が困難な腫瘍の治療に使用されます。犬の化学療法は人間ほど高用量を使わないため、副作用(嘔吐・下痢・食欲低下)は比較的軽度で、治療中も普段通りの生活を送れる犬が多いです。

放射線療法

手術で取りきれなかった腫瘍の残存部分の治療や、手術不可能な部位の腫瘍に使用されます。全身麻酔下で複数回の照射を行います。実施できる施設は限られており、大学病院や専門病院への紹介が必要です。

緩和ケア

治療が困難な進行がんでは、痛みの管理と生活の質(QOL)の維持を最優先する緩和ケアが選択されます。鎮痛薬・ステロイド・栄養管理などで「その犬らしい時間」を過ごすことを目指します。


今すぐ病院に行くべきサイン

  • しこりが1か月以内に急速に大きくなった
  • しこりの表面が潰瘍化・出血している
  • 体重が理由なく減っている
  • 食欲の低下が1週間以上続いている
  • 複数箇所にしこりが同時に出現した
  • リンパ節(顎の下・肩の前・膝の裏)が腫れている
  • 足を引きずる・特定の場所を痛がる

様子見してよい場合

  • 過去の細胞診で良性と診断済みで、サイズの変化がない
  • 定期的な獣医師の経過観察スケジュールに入っている
  • しこり以外の全身状態に異常がない

初めて見つけたしこりは「様子見」ではなく「まず細胞診」が原則です。


病院に行くときの準備

  1. しこりの記録:発見日・場所・サイズの変化を写真と計測で記録
  2. 過去の検査結果:以前に細胞診や血液検査を受けていれば持参
  3. 犬種・年齢・避妊去勢の有無:腫瘍の種類の推定に重要
  4. 全身状態の変化:食欲・体重・元気度・水飲みの変化
  5. 質問リスト:検査の種類・費用・治療の選択肢について聞きたいことをメモしておく

この記事の情報は一般的な参考情報です。個別の症状については必ず獣医師にご相談ください。

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この記事は一般的な獣医学知識に基づく情報提供を目的としており、獣医師の診察に代わるものではありません。 個々の状態は異なるため、少しでも不安がある場合は動物病院を受診してください。